中の表紙をのぞいてみよう

天声人語(21年11月20日)は、次のような内容でした。

世の読書家には二つの流派がある。一つは、本を包むジャケットを外して中にある表紙のデザインを確かめる派。もう一つは表紙には見向きもしない派である。私は後者に属する。大阪市で出版社を営む末沢寧史さんは筋金入りの「確かめる」派。書店で本を選ぶ際、必ずジャケットを外し、表紙のつくりを点検する。「ジャケットはお化粧、中の表紙は素顔」。その違いを楽しみたいからです。(以下略)

ボクも、ジャケットを外してまで中の表紙を見ることなど、あんまりありません。興味を惹かれたので、手近にある本のジャケットを片っ端からめくってみました。

結論から言いますと、ほとんどの本は、中表紙が無地一色、またはジャケットのデザインを若干アレンジしたものでした。つまり、わざわざジャケットをめくって中の表紙をのぞいたとしても、それほどのサプライズ感はない、ということになります。

でもね、時たまにあるんですよ。おー、これはガンバっとるなー、というデザインが。確率でいうと、千冊に四、五冊。いえ、ぜんぜんエー加減なカンですがね。ま、それくらい少ないということです。

ではちょっと我が家の本棚から、その稀有な例をお見せしましょう。

『精霊の王』中沢新一 講談社 2003年

かって、日本のいたるところの道に無造作に転がっていた、シャグジ=宿神と呼ばれる石の神について語った本です。ジャケットをめくると、この石の神がお出ましになる仕掛けになっている。背表紙のワインレッドも効いていて、美しいデザインです。装丁家は、祖父江慎さん。

『ページと力』鈴木一誌 青土社 2002年

鈴木一誌さんは、グラフィックデザイナー。ブックデザインを得意とするが、単に装丁だけでなく、本文、図版レイアウトを含めた書物全体の設計を手掛けている人です。ジャケットを開いて現れるのは、ブックデザインの工程を表したチャート図。装丁は、もちろんご本人です。

『星への筏』武田雅哉 角川春樹事務所 1997年

星への筏‥とは、古代中国人の詩的想像力の言語世界のなかで、「宇宙船」を意味することばであった。武田氏は中野美代子さんのお弟子さん。中野流の面白ろ不思議なグラフィック世界が展開する。中の表紙は「河源之図」。中央に見える山は、崑崙。装丁は鈴木一誌+後藤葉子+宗利淳一

『ぼくは豆玩』宮本順三 いんてる社 1991年

宮本さんは、高等商業を卒業後、グリコに入社。それ以来、ずーっと半世紀にわたってグリコの豆玩(おまけ)を作り続けてきた人です。ジャケットの絵は、宮本さんがメモ帳に描いた思いつき。ジャケットを開くと、ご本人の似顔絵。あっと驚く趣向ではないけど、イキなもんでしょ。

『肉麻図譜』中野美代子 作品社 2001年

「肉麻」は、「ろうまあ」と読みます。「麻」には繊維としての「あさ」のほかに、「しびれる」の意味があり、そこから「肉麻」は「いやらしくてむずむずする」の意味になるそうです。これは中国の春画についての本。中野美代子さんは、ボクの敬愛する著作者の一人ですが、こういうのも結構お好きなんです。さて、ジャケットをめくると、さすがに表には出しにくいような絵が現れる仕組み。装丁者は、阿部聡さん。

いかがですか? いままで見過ごしていた、ジャケットの内側のギャラリー、あなたもちょっとのぞいてみては。